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私の次女ブルータスはどらエモンが大好きです。部屋にはどらエモンのさま ざまグッズがたくさん置いてあります。とくにどらエモンの映画が好きなよう で、ビデオ屋で借りて繰り返し見ていたものでした。 小さなときのブルータスをビデオ屋に連れていくと、私がヤクザ映画のビデ オを探していると、ブルータスはいつもどらエモンの映画のビデオを手にとっ て、「これはどんなお話だっけ?」と私に聞いてきたものでした。何度か見て いるのですが、まだ小さいブルータスは覚えきられなかったのでしょう。 そんなどらエモンが出てくる夢をきょうの朝、私は見ていました。 夢の中でブルータス(彼女の名前はサヨコといいます。どらえもんの話の中 ではやはり本名のほうがふさわしい)は中学生のようです。 朝もうサヨコは学校へ行ってしまっていまして、家には私しかいません。私 ももう出勤しようという時間です。サヨコの部屋には、いくつものどらエモン グッズがありますが、とくにどらエモンを小さくしたようなおもちゃの像が二 つありました。 ところが、そこへ変などろぼうがやってきまして、このどらえもんのおもちゃ をもっていこうとします。ちょうどハクション大魔王に似たような悪党泥棒の ようです。私が大声をだしますと、その悪党は、あわてて、どらエモンのおも ちゃを一つかかえて逃げ出します。 これには困りました。一つを盗まれてしまったのです。「サヨコが悲しむな」 なんて思って、困りはてていますと、もう一つ残っていたどらエモンのおもちゃ の像が、突如本物のどらエモンに変わりました。 よし、取り返しに行こう! パパさんも一緒に行くんだよ。 と私を誘います。そうか、私も一緒に行こうと気持をひきしめて決意しました。 でも一体、あいつはどこへ逃げたのだろうか。 どらエモンは、そこにある金魚の水槽を指さします。 この中に逃げたんだよ。 実は金魚の水槽と言っても、少し大きな水槽で、泳いでいるのは、本物の金 魚ではなく、みなおもちゃの魚や貝です。 でもどうやって、この水の中に入るのだろうと思っていると、どらエモンが 指さしたところのガラス面に、細い穴が空いています。え、こんなところへ逃 げたのか。でもそんな小さなところに、どうやって入れるのだろう。 私は躊躇しているのですが、どらエモンはすぐに私の手を引いて、その中へ 飛んでいきます。どらエモンは、左手に、大きなバケツをもっています。綺麗 なおもちゃのようなバケツですが、フタがしてあって、どうやらその中にはい ろいろな道具を入れているようです。「武器もあるのかな?」 でも、どらエモンの道具って、お腹のポケットじゃなくて、バケツで持っ て行くんだ。 なんて思っているうちに、敵の本拠に着きます。そこはたくさんのおもちゃ の国でした。探し歩く中、急にどらエモンに、大勢の悪いおもちゃが飛びかかっ て捕まってしまいます。でも、どらエモンは落ち着いていて、隙を見て、バケ ツの中から武器を取り出して、みんなをやっつけます。相手は目を回して降参 します。 どらエモンのおもちゃをどこへやった という私とどらエモンの問いに、その目を回している連中は、すぐそばにある 地下へ伸びている階段を指さします。 でも、私はなんだかそこへ入るのは怖いのです。どらエモンは、 パパさん、ここで待っていてよ と言って一人で入っていきます。随分その階段は深くて、何層にもなっている ようです。だんだん、私の問い掛けに答えるどらエモンの声が小さくなります。 少し心配になってきたところで、突如、また新手の悪いおもちゃたちが大勢 でやってきて、この階段の上から、たくさんのものを投げ入れてしまいます。 どらエモンを閉じ込めてしまおうというのでしょう。これはわなだったのでしょ うか。 でも、私は少し安心もしています。さきほどの戦いで、どらエモンのバケツ の中の道具の強いことを見ていたからです。 やはり、やがて、どらエモンは、その階段の奧から、なにもかも爆破して飛 び出してきました。悪いおもちゃたちは、また目を回しています。でももう一 つのどらエモンを盗んだ悪い奴(こいつが相手の親分のようだ)はいません。 またその部下たちに聞くと、そいつはまた別な世界へ逃げたようです。またど らエモンは、そこへ行こうとします。だけど、そこで私は気がつきました。私 は、もう会社に行かなければいけない時間なのです。 どらエモン、またあいつを追うのは日を改めようよ。もうパパは会社に いかなくちゃいけないんだよ。 いくらか、どらエモンとのやり取りがありましたが、私が会社に行かなくちゃ という決意が固く、どらエモンも、「じゃ、また改めて来よう」ということに なりました。 私はもう会社に行くのだから、どらエモンには、サヨコの部屋に帰ってほし いと言いました。 どらエモンなら、また飛んで帰ればすぐじゃないか。 でも、どらエモンは悲しい顔をして、 仕事の邪魔しないから、会社の隅に置いておいてよ といいます。私は仕方ないなあと思い、かつどらエモンを一人で帰すのも可哀 想だなと思って、 じゃさあ、どらえもん、元のおもちゃの姿に戻ってよ、そうしたら、こ の鞄に入って持っていけるよ。だけど、パパはお客さんのところへ行くか ら、事務所で一人でいるんだよ。 といいました。だがどらエモンは、もうしばらく、この姿でいたいといい、私 に抱っこされたいといいます。 もう普通の世界に戻っていた私は、それじゃと、左手で、ビジネス鞄を下げ て、右腕で、どらエモンをかかえました。どらえもんは小さいのですが、どっ しりしています。保育園に入った頃のサヨコくらいの大きさです。私が右腕で かかえているどらエモンのお尻は柔らかくて、あかちゃんのお尻みたいで、そ して、やさしい感じです。 私がしっかりかかえると、どらエモンは私の胸に顔をうずめます。そして小 さな声でいいます。 あのおもちゃの像が何体かないと、ボクはこうしてどらエモンになれな いんだ。 え、そんな話は初めて聞く話です。こうしてどらエモンが活躍できるのも、 もともとのおもちゃのどらエモンがいるかららしいのです。だから普段はおも ちゃとしてじっとしていて、いざとなったら、こうして活躍できるのです。で もそのおもちゃは、だんだん古くなったり、棄てられたりしてしまうから、そ のうち、どらエモンは消えてしまうしかないのです。それで、どらエモンが必 死にもう一つのおもちゃを探した訳が判りました。 私が、 そんなことなのか。それなら、あのおもちゃをいくつも買っておこう というと、どらエモンは悲しそうに、「もう、あれは生産していないの」とい いました。 え、でもあれを取り返せば、ずっといられるんだろう? という私の問いに、どらエモンは悲しそうに答えます。 あれを取り返せば、もう少しいられるけれど、サヨちゃんが大学生にな る頃には、ボクはもういなくなってしまうしかないんだ というのです。私も「そんなもう何年もないじゃないか」という思いに、どら えもんをじっと抱きしめました。そして涙が私の頬を伝わってきました。悲し い、悲しいよという思いです。サヨコが大人になっても、ずっといてくれれば いいのに。 悲しい思いで涙を流したときに、私の目が覚めました。 なんだか、はっとしてしまいました。「なんだ夢だったんだ」。あらためて、 サヨコの部屋に行って、どらエモンのたくさんのグッズを眺めました。みなど れも同じ場所にそのままいました。 また夢の世界で、どらエモンと一緒にあの悪党のところへ行って、あのどら エモンのおもちゃを取り戻したい。今度は私が必死で戦います。 でも、そんなことができるのかな。 (1999.11.25)何故か私は女衒なのだ
どうしてなのだろうか。私は南米のどこかの山岳にいるようである。乾いた 土地であり、動物はリャマがたくさんいる。 私は二人の若者に使われている。兄が25歳くらいで、弟は19歳くらいだ ろうか。私は30歳くらいのようだ。 少し太った実直そうな、神父が馬をひきながらやってくる。彼のあとには、 女たちがちょうど10人ついてきている。人妻もいるようだ。みなメソチゾの 女らしい。だから今思い出しても、どうみても南米なのだ。女たちは疲れたよ うに、そこらへん座っている、みな何も喋らない。 兄のほうが、神父と挨拶して、私のところへやってくる。「おい、お前がきょ うは交渉しな!」 金の交渉は、兄がいつも仕切っているのだが、きょうは私にやれという。私 は神父のそばに寄る。少し頭のはげ上がった50代くらいの真面目そうな男だ。 彼は黒いゆるやかな服を着ている。今思えば、あれは僧服なのかな。いわば袈 裟だから、黒だったのか。 私はあんまり自信がないのだが、思いきって神父に言う。 一人10で、全部で100だ! (ええと実はこのときの金の単位が思 い出せないのだ) 神父は、すぐに怒った顔になる。 駄目だ! どれだけ遠いところから来たと思うんだ。そんなんじゃ村へ は帰れない。 そして私に小声で言う。 おい、それに俺の取りぶんはどうなるんだ。あいつに話してくれ。こんな んじゃ、俺は帰るぞ! 私は、「この金額でビタ一文変わらないよ」といいながら、心の中では、少し 可哀想になっている。まわりで、座っている女たちも、聞かないふりをして、実 は我々二人の交渉を心配しているのだ。 私は兄のところへ行く。「神父が一人10じゃ駄目だと言っている。それと奴 の取りぶんは一人10%でいいのか? でもこれも不満そうだけど」 兄は、怒り出す。 馬鹿いうな、それ以上出せるか。それで通せ。 そのあと、私と彼で少し言い合いになる。私はあの疲れた10人の女たちが可 哀想なのだ。本当なら、彼女たちの村へ直接金を届けられたら彼女たちはどんな に嬉しがるだろうか。だが、兄が怒りだす。私を殴ろうとする。私は私よりも年 下だが、ここではリーダーである彼の制裁をそのまま受けようとする。歯を食い しばって彼を睨む。殴られるときには歯をくいしばったほうが、当然痛いのだ。 弟が兄に何かをささやく。兄は、殴る手を降ろして言う。 そうだ、お前の歯は差し歯だったんだな。こんなところで歯を飛ばしたら、 歯医者はねえぞ! またにしとこう。(実際に私は前歯は差し歯ですからす ぐに飛びます) と言って、白い歯を見せて笑う。 私は神父のところへ歩いて行く。弟がついてきて、私に言う。 お前、あの値段ならたいしたものだよ。それで神父には、10%にさらに 5までならいいんじゃないかな。 私は自分が思っていた通りのことを弟が言ったことに、少し自信がつく。私は 神父に言う。 一人10で全部で100だ。それでお前の取りぶんは10%の3.6だ。 ただ、これでOKなら、お前には5やろう。どうだ! ここで、実直そうだった神父の顔に少し小狡い表情が出てくる。そうだ、こい つはまた村へ帰って、親や夫からもまたとるんだから。でもこいつも貧しい村に は大切なことをしているんだろう。 神父は馬をひきながら去っていく。女たちは、寂しそうにそれを見送っている。 どうやら、俺もはじめてこうした交渉を委された。でもとうとう、俺はこれで女 衒になってしまったんだな。これからどうなるんだろう。 そんな思いの中でいるときに、ほんのさきほど(朝の6時少し前に)目が醒め ました。 なんで、こんな夢を見たのでしょうか。見当がつきません。ただ、前歯に関し ては、二日前にあるところで打ち合せをしていたときに、そこにいたある人が、 いや、前歯が折れちゃって。もともと差し歯だったから。 と言ったら、前にいた人(実は昔赤軍派)が、「私も前歯はみな差し歯で」と言 い出しまして、私はさらに口には出しませんでしたが、心の中で「実は私も前歯 は差し歯ですな」と言っていました。 ただ、何で南米にいたのかは判りません。でも私の先祖の一人がいたのかもし れないなと今思いました。 (2000.01.14)私は逃亡している女
何日か前に見た夢です。 私はどうしてか女性であり、しかも30代で、4歳くらいの女の子を連れて います。私は子どもの手を引きながら、ある大学の中を歩いています。 この大学は、私の出た埼玉大学なのですが、夢の中では、大学のキャンバス の中が賑やかな街みたいな一画が出来ていまして、そこにレストランや飲み屋 が何軒も出来ています。実は、夢の内容は違っていても、この埼玉大学の風景 が出てくる夢の中ではいつも同じなのです。不思儀なくらい、いつくものお店 が並んでいるのです。 私は、何からか必死に逃げているところで、この大学の中ならば相手に見つ からないのではという思いで、そこにある店のどこかに勤めようと思っている のでした。 一軒のラーメン屋であり飲み屋のような構えの店に入っていき、ここで働か せてもらえないかと店主に言ってみる。店の前に「アルバイト募集」という貼 り紙があったからだ。 なんだか人の良さそうなその店主は、「はい、いいですよ。それで履歴書見 せてください」という。私は「しまった、履歴書をどうして用意しておかなかっ たんだろう」という思いを抱くが、「だって、住んでいるところもないのだか ら書けないのだ」とも思う。しばらくもじもじしている私に、その店主は、 「じゃ、そこに座って、書いてみてよ」とコクヨの履歴書とボールペンを渡し てくれる。そして、娘に「こっちへおいでよ、お母さんがお仕事している間に、 いいものをあげようね」と言って、娘の手をひいて、厨房のほうへ行く。 さて、だが私は履歴書を前にして、どうやって書いたらいいのか困ってしま う。私は一体どのくらい職を転々としてきたことだろうか。だからいつも履歴 書を書くときに躊躇してしまう。だからいつも長時間かけて、必死になって、 自分の履歴を作り上げているのだ。だが、きょうは不用意にも、こういう事態 になってしまった。 思えば、友人のGは、こんなことを言っていた。 自分の履歴というのは、「もうこうなのだ」と思い込んで、そのまま暗 記してしまうのよ。会社によってはね、履歴書を持って行っても、面接の 前に、「では、この紙にもう一度ご自分の履歴書を書いてみてください。 もちろん、提出した履歴書と同じでいいですよ」というところがあるのよ。 これが、簡単なようで書けないものなのよ。だから、私は頭の中に、私の 「これが私の履歴、職歴、私の人生の歴史なの」と完璧に作り上げてある から、どこでも同じものが書けるの。 そうだ、Gの言うとおりなのだ。だけど、今の今は困ったな。 店主が戻ってくる。まだ何も書いていない私を見つめる。私はまだ住むとこ ろも決っていないので、書き出せないことを伝える。 店主は、 うーん、あなたは何か事情がありそうだね。だけど、私のところは、住 所が定まっていない人は雇えないんだ。なにしろ、ここは大学の中だろう。 うるさいんだよ。…………、そうしたらね、私の知っているお店を紹介し ようか。ここから10分くらいのところだよ。そこなら、住み込みで働く ことができる。今から電話しておくから、行って見てください。 もう私は大変に感謝して、お礼を述べ、その店主の書いてくれた地図を見な がら、娘の手を引いて歩き出す。娘の手には、店主からもらったお菓子がある。 大学の正門から出て、ちょうど10分くらいのところに、そのお店はあった。 ここも何軒もの飲食店や他の店が並んでいる街なのだ。 今度の店主は、俳優の津川雅彦に似た風貌の人で、店の中から私を見て、す ぐに判ったようだ。年齢は50代後半だろうか。「はい、いらっしゃい。○○ さんだね」と言ってくれる。 そして、私と娘の名前を聞いただけで、住むのは、2階だと言って、住所と 電話を書いた紙をくれ、「荷物があるだろうから、ここへ送ってくればいい」 と言ってくれる。2階は、前には自分が泊まっていたのだが、今はすぐ近くか ら通っているのだという。 私はその2階に上がって、やっと落ち着いた気になる。店主は2階に案内す ると、すぐに下に降りて行ってしまった。何しろ忙しい店なのだ。私は 「お母さんは下のお店にいるよ」と言っておいて娘を昼寝させ、下に降りてい く。店主に「働かせてください」というと、「仕事は明日からでいいのに」と いいながら、嬉しそうに、いろいろと教えてくれる。 私もなんだか、その店主の顔を見ていると、嬉しくなって、一生懸命に仕事 を覚えようという気になってくる。私は不器用だけれど、真面目に働く気持だ けはあるのだ。 私には、もうそれからただただ、必死に働きだした。問題は娘のことなのだ が、心配した店主が保育園に入れたらと言う。それはそうなのだが、今の私に はなにもかも明かせない事情があるのだ。公立の保育園に入れられるわけがな い。でも店主は、「公立でなくても、私立のでもいいじゃないか」と言ってく れる。料金は多少高くても、そんなところでもいいかななんて思い始める。も う、ここで働いてもうすぐ1カ月になるのだ。そう私は、その夢の中でも、も う1カ月働いているのだ。 だが、そのちょうど1カ月目の日、私は午後1時半くらいのときに、私は厨 房の中から、店に、あの女が来ているのを見る。その女は、青いツーピースを 来ている。「どうして、ここがわかったんだろう?」。だが、なんだかこの女 は、私がこの店にいるとまでは判っていないようだ。この街のどこかにいると まで判って来たのだろうか。私は逃げなくてはいけない。しかもすぐにだ。娘 が外で遊んでいる。見つけて、すぐに逃げなくてはならない。もう2階に行っ ている時間もない。ここの親切な店主には、あとで手紙を書けばいいだろう。 私は厨房の奧にある勝手口から急いで外に出ていく。 私は「また逃亡生活になるのだ」と思う。またどうなるんだろう。 ここで夢が覚めました。夢の中では必死になっているだけで、何故私が逃亡 していて、追ってくるあの女は何なのかというようなことは、サッパリ判りま せん。いつも理由がはっきりしないままに、いろいろな夢を見ています。 (2000.08.20)荒國誠先生が出てきてくれた
親友の堀雅裕さんがなくなりまして、もう1カ月以上がすぎてしまいました。 なんだか、私はこのごろいらいらしていました。彼と私はよく会って飲んでいた といいましても、互いに遠慮というようなものがありまして、長く連絡を取らな いことも多々ありました。彼と会うと、どうしても二人で莫大に飲みますし、そ して延々と飲んでいますので、それは彼の身体によくありません。それでは、奥 さんの燕尼に心配をかけてしまいます。ただ、このごろは、彼と二人で飲むこと よりもMさんという女性と3人で飲むことが多くて、それは実に愉しい瞬間でし た。若くて綺麗な女性が間にいると、なんだか二人ともに、けっこう真面目になっ てよかったなという思いでした。 でも彼とはしばらく連絡をとらないといっても、さすがに1カ月もすると、電 話をしてきたものでした。私の事務所へでも、携帯へでも、自宅へでも電話して きます。留守でも、折り返しすぐに私は電話しますから、結果としてどこかで飲 むことになります。1軒で終わろうという固い決意も、飲んでいるうちにもう1 軒ということになってしまっていました。 そんなことをもうずっと繰り返していたわけですが、今回だけは、もう1カ月 が過ぎようと、彼から電話がかかってくることはありません。なんだか、仕事を していても、道を歩いていても、彼からの電話が「なんでないんだろう」なんて ぼんやり思っていて、そして気がつくことがあります。「彼はもういないんだな」。 そしてとくに近ごろは、自宅に帰っても、なんだかすぐ寝てしまっていました。 なんだかとにかく寂しい思いで、もう眠ってしまいたいのです。眠れば、この思 いが晴れるのではというような感じをもつのですが、実際はそういきません。で も普段は平均4時間の睡眠ですんでしまうのが、ただただ眠ってしまっていまし た。10時にベッドに入れば、普段ならば、午前2時頃には起き出してパソコン に向かっているはずなのに、眠りから覚めることができないでいました。そんな 日が続きました。 13日に、また11時半頃寝室に向いました。妻が「パパ、歯磨いた?」なん て声を後にして、まず次女の部屋を覗くと、「パパはママの子どもみたいだね」 なんて言われました。「でもなんだか元気ないね」という言葉に、 うん、堀ちゃんがなくなってサ、こんだけ時間がたっても、あいつ電話し てこないからね、ほんとに死んじゃったんだと思うとね、もう元気でないよ。 それで、私としては午前4時には起きられる予定なのですが、なぜかそのまま 眠ってしまっていました。 そしてその朝(14日)私は夢を見ていました。その夢は、私が最初に詩吟で 師事しました國誠流吟道会の宗家荒國誠先生なのです。もう先生とはお別れして から20年になるでしょうか。 荒先生には、さまざまに励まされてきたものでした。そして何といいましても、 先生の詩吟が私は一番好きでした。荒先生の人間そのものが、私は尊敬していま したし、大好きでしたが、先生の詠う吟そもものも大好きでした。 夢の中で、先生は何曲も詩吟を詠い続けてくれました。言葉は何も喋りません。 昔聞いていたときには、先生は宗家ですから、最後に模範の吟を一つやるだけで す。そして宴会になると、もともとオペラ歌手でした先生は、カンツオーネをやっ てくれたものです。 その先生が、いくつもいくつも詩を吟じてくれます。一体何曲詠ってくれたの でしょうか。私はその吟が終わったときに、思わず大きく拍手します。先生は、 私を見て、にっこり笑ってくれました。その笑顔を見て、私の拍手の大きさの中 で、私は目が覚めました。 きっと元気のない私のことを励ましに来てくれたのだなと私は確信しています。 私は夢の中の先生の声と笑顔を忘れません。思えば堀ちゃんも、ジャズが好きだっ たわけですが、詩吟も何故か好きでいてくれたものでした。 どんなことがあっても、やり続けなければならないのです。元気に生きていか なければならないのですね。 荒先生、ありがとうございます。また元気にやっていきます。 (2000.12.15)
更新日:2007年04月06日